Audio Note と Audio Note Kits に関して

 Audio Note Kitsは、英国Audio Note 社(Audio Note UK)のキット部門をカナダのBrian Smith氏が引き継いで営業している小さな会社です。回路の設計のサポート、要の部分の部品の供給はAudio Note UK から受けています。 Audio Note UKの母体は、日本のオーディオノート社の欧州代理店だったのですが複雑な事情で結果的には暖簾を分けてもらったほうが本家の暖簾を乗っ取ったという形で独立した会社です。海外では日本のオーディオノート社は、Audio Note Kondo と呼ばれ区別されています。

 

 Audio Note Kitsの製品は、Audio Note UKの完成品と 同じものではありませんが、デザイン・基本的な回路の多くは共通しています。Audio Note UK社は、アナログ・デジタルソース機器、アンプ、スピーカー、ケーブルの自社ブランド品を生産・販売している総合オーディオ機器製造/販売会社です。アナログソースは、OEM製品や他社製品を独自に改良したものが主ですが、デジタル・ソース、アンプは自社生産、スピーカー・ユニットはOEMでエンクロージャー・クロスオーバは自社生産し、組み立ても独自に行っているようです。ターンテーブル、カートリッジ、スピーカー以外の製品の基本的なコンセプトは、真空管の増幅回路、カップリングや出力・入力段にトランスを多用、電源の整流や電圧安定化に真空管を多用...など 。製品のグレードは、レベル・ゼロからレベル・10まであり、レベルが上がるほど、トランスやプレミアムパーツがより多く投入され銀線の使用量が多くなります 。トランス、抵抗、フィルムコンデンサー、ヴォリューム・アッテネーター、配線材などの部品は、Audio NoteUKブランドの特注品。(トランスは自社生産していうという噂もありますが定かではありません。)

 

 スピーカーは、スネル・アコースティックの創始者である、Peter Snell氏が1970年代前半に考案、開発したデザインをベースに改良をかさねたもの。Snell氏のデザインは、箱鳴りを無くす方向ではなく、箱も発振体の一部として設計するという考え方で創られたものです。スネルの発売した、Type J, Type K Type Eと名付けられたスピーカーは、アメリカのオーディオ評論家の高い評価を受け、スネルのスピーカーメーカとしての地位を確立しました。しかし、Snell氏は、1984年に心臓発作で38歳の若さで急逝。Audio Note UK 創立者でオーナーのPeter Qvortrup氏は、当時スネル・アコースティック社の欧州輸入販売代理人もしており、Snell氏亡き後、新経営陣のもと大幅に設計方針とプロダクトラインを変更したスネル社よりTypeJ, K, Eのデザインをベースにしたスピーカーの製造・販売の許可を得て、現在に至っています。僕がアメリカに渡った1987年頃は、まだSnellのType J, K, Eが現行品として売られており、Type Eを聴いていい音だと思った記憶があります。

 

 Audio Note UKは、超高額製品を出していることでも有名です。特に最高レベルになるとプリアンプ、アンプ、DACだけで数千万円にもなります。アメリカで住んでいた家の近くにあったショップ(DejaVu Audio)は、アメリカでも数少ないAudio Note UKの取扱店で、ハイエンド機種も多く置いていました。オーナーのVuさんは、当時25万ドル近くするAudio Note UKのモノ・パワーアンプを2組売ったと話していたことがあり、一組は、あのマイケル・ジョーダンが 買ったとのこと。25万ドルのアンプってどのぐらいいい音がするのか聞いたら彼は、このぐらいの価格帯のものは音のよしあしよりもお金持ちで、他に持っている人がいないような物を持ちたい人が買うから、そういう顧客を想定して作られたものだよ、と教えてくれました。

 

 今はAudio Note Kitsの製品しか持っていませんが、一時期 Audio Note UK のAN-KというスピーカーとOTO SEというプリ・メインアンプを使っていたことがあります。その経験といろいろと試聴した経験をもとに肝心の音はどうかというと、 良い方をすれば自然で聴き易くそして音楽に要となる情報量は十分に出てくる音といえると思います。特にデジタルは、アナログ的でデジタル臭さのない僕の好みの音です。これは、逆に言うとCDに録音されている音がすべて明瞭に聞こえるというわけで無く、音楽に不必要な音(たとえばクラシックのライブ録音で消すことができなかった観客の雑音)などは一部のハイエンド機器のように明らかに聞こえるということは余りありません。いい意味でも悪い意味でもイギリス紳士を思わせるアンダー・ステーテッドな音で、『えっ!これがXX,XXXドル?』と思う人が多くいても不思議でない音ともいえるでしょう。 日本から来たオーディオ・ファイルの友人をそのショップに案内したら、音を聞いて値段をきいて『これは侘び寂びの世界だ~』と絶句されました。 Vuさんによると、一通りハイエンド・オーディオ機器を使ってきて疲れた人たちがAudio Note UKの製品を聴くとその多くが購入に至るのだそうです。癒し系の音なのかもしれませんね。

 

 Audio Note UK 創立者でオーナーのPeter Qvortrup氏は個人的にDIY(自作)派のオーディオ・ファイル向けの製品も支給していきたいと思っていたようで、かなり早い時点から300B シングルのKit One、プリアンプ、DACキット等を直接販売していたようです。ところが、完成品の売上げと人気が伸びてきて、本業に専念しないといけないと判断した時点でキット部門の廃止を考えていたところにBrianが最後のKit Oneを買うために現れたそうで、Qvortrup氏と話すうちにキット部門を引き継ぐことになったとのことです。2003年頃のことらしいです。

 

 BrianがAudio Note Kits をカナダから再開したのは2004年。当初の製品はほぼ完全にAudio Note UKのデザインと部品を使った製品群でした。その後、少しずつ独自の新製品も出し、パーツ(特にトランス)もAudio Note UKの技術者たちの援助でカナダのメーカーに生産を委託するなど、できるだけ価格を抑えて高品質のキットを提供していく努力がされてきた様に見受けられます。Audio Note Kitsがここ数年に出してきた新製品の数々は、Audio Note UKのチーフ商品開発エンジニアであるAndy Groove氏の設計によるもので、新開発のトランスなども彼のものです。 Audio Note Kitsの製品群の音はAudio Note UK の製品と共通項の多い音ですが、ストック・パーツだと価格差相応の音の違いが感じられるような気がします。配線材を含む部品アップグレード・吟味などを重ねることにより、より安価に音を良くし、より自分好みの音を追求していけるのがキットそして自作の魅力であると言えるかと思います。

 

(2012年11月)

 

 

AN-K/SPE
AN-K/SPE
プリメインアンプ、OTO-SE。 EL84/6BQ5をシングル・パラで純A級作動させたもの。とても良い音のアンプで今でも手放したことを悔やむことがあります。
プリメインアンプ、OTO-SE。 EL84/6BQ5をシングル・パラで純A級作動させたもの。とても良い音のアンプで今でも手放したことを悔やむことがあります。